2010年02月04日

壮絶なプレッシャーとの戦い

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 ビリヤードはメンタルゲーム。それはもちろん対戦相手との心理戦でもあるし、自分との戦いでもある。そしてこれがチーム戦となると、仲間との関係という要素が加わり、メンタルゲームはより一層複雑なものとなる。

 昨晩の日本チームは強敵オランダを相手に望外の8ボール2勝スタート。圧倒的に有利な立場になったことは間違いない。だがここからが本当の戦いの始まりだった。将棋の世界では「優勢を勝勢にするのが最も大変」とされている。一瞬の緩みが逆転に繋がるという意味ではビリヤードもまったく同じだろう。
 9ボールを撞いたのは大井と川端。昨晩の試合テーブルは残念ながら結構寄れるテーブルだった。それを気にしたヴァンデンバーグは既に死んでいたとも言える。逆に大井は寄れる球は撞かない、入れ命を即決。両者の判断の差がそのまま勝敗を分けた形だ。これで日本3連勝。最低でもシュートアウト勝負に持ち込める、言うまでもなく圧倒的に有利な状況だ。しかし、このことが逆に大きなプレッシャーとなって跳ね返ってくるのがチーム戦の怖さなのだ。昨日一昨日と同じく、レリー戦に川端が勝ってしまえばそれで終了だ。だが逆転に賭けるオランダの意気込みも凄い。お互いが震える中、最後にミスしたのは川端だった。昨日、自分が勝てば4-2で勝利の状況でレリーは自滅してしまい、オランダはシュートアウト勝負にも敗れてしまった。同じ失敗を繰り返したくないレリーが、徳俵一杯で踏みとどまることに成功したのだ。
 これでもまだ日本3勝1敗。有利なのは変わっていないが、どちらかが勝てば良いという状況は、野球に例えるならば外野フライをどちらかが捕れば良いというシーンに似ている。最悪「お見合い」があり得る。更にもう一つ悪いことに、2戦目3戦目の連続4-0勝利があだとなって、赤狩山&田中がまともに10ボールを試合をしていないのだ。8ボールと9&10ボールではそのゲーム性が随分違う。8ボールなら入れに行かない嫌らしい配置を、9&10ボールでは入れ繋いでいく必要がある。百戦錬磨の2人ですら、こういう状況は撞きづらいものなのだ。また、ほぼ確実にポケットインしてくるフェイエン&フーのブレイクに対して、赤狩山&田中のブレイクはノーインが多かったことも、オランダを勢いづかせることに繋がっていった。
 よりプレッシャーがかかったのはフーと対戦した赤狩山だったろう。……田中の対戦相手は世界のトップ10には間違いなく数えられるフェイエン。田中の実力を認めてはいても、勝負は五分五分だろう。ならば自分がきっちり勝つしかない……。実際、赤狩山がそうはっきり考えていたかどうかはわからない。だが、連続ブレイクスクラッチもあって、赤狩山の心が乱れたのは間違いない。フーも決して出来は良くなかった。だがやはり勝負は追う側の方が心理的には楽なもの。先にリーチをかけるチャンスを活かせず、赤狩山は敗れた。日本3勝2敗。
 今回の田中は本当に格好良い。昨日も勝負所で2発のキーショットを決めていたが、心身共に乗っている感じが伝わってくる。テーブル周りの動きが機敏なのがその証拠だ。8ボール、10ボール、共にオランダからのテーブルへのクレームから試合を中断されても気にせず、強烈なフェイエンの追い上げにも怯むことはなかった。
 常に田中がリードする状況ではあったが、フェイエンの気合も半端ではなかった。田中6-5リーチからフェイエンは完璧なブレイクを決めてマスワリ。負ければ終わりのプレッシャーの中、さすがに“ターミネーター”のメンタルは強い。ここまで、スコアだけ見れば間違いなく追い詰めているのは日本なのだ。しかし川端&赤狩山が連敗し、心理的に追い詰められていたのは間違いなく日本だった。何が起きてもおかしくない最終ラック。この時、流れは完全にオランダにあった。繰り返す、この日の田中は本当に格好良かった!!この試合一番のブレイクをこの土壇場で決めてみせ、極限のプレッシャーの中でマスワリフィニッシュだ。サッカーのワールドカップで勝ち上がるにはラッキーボーイが必要とされる。まさに田中は日本チームにとってのラッキーボーイだ。昨年のランキング1位、今年は多くの海外戦を戦うことになる田中にとって、この一勝は世界に対する強烈な名刺代わりになったことだろう。海外戦ではこういう勝利が、今後の試合での戦いやすさに繋がっていくものなのだから。
 すべてが噛み合わずに敗れたスイス戦から3戦を経て、日本はチームとして大きく成長してきたように思う。皆が勝ちも負けもを味わった。大井はレグリへのリベンジを誓っている。同じくシングルで敗れた赤狩山、田中も思いは同じだろう。舞台は整った。
 きっと、彼らはやってくれるはずだ。




大会日程
2010年2月:

posted by mathilda at 19:18| 新潟 | 世界チーム選手権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする